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世界を熱狂させた二人の若きブレイクダンサーの次なる挑戦。<br>Shigekix×HIRO10[スペシャル対談]

2025.02.04(最終更新日:2025.02.05)

ブレイキン

世界を熱狂させた二人の若きブレイクダンサーの次なる挑戦。
Shigekix×HIRO10[スペシャル対談]

雨宮圭吾

世界を沸かせた日本を代表するブレイクダンサーの二人が、夏の国際大会での戦い、D.LEAGUEへの挑戦、B-BOYの美意識「B意識」まで、語り尽くした。

Shigekix(以下S) 去年、夏の国際大会ではよく話したね。

HIRO10(以下H) そうですね。宿舎の部屋も一緒でしたから。

S 本番前にわざわざ大会の話とかしないから、他愛もない話ばっかりだったけど。

H 初日だけは一つの寝室を二人でシェアする状態で、「僕リビングで大丈夫です」って段ボールのベッドを動かしたんですよね。そしたらカーテンがなくて、夜中めっちゃ明るくて全然寝られなかった(笑)。

S バスタオルを扉に挟んでカーテン作った。懐かしい(笑)。

H 今思い出してもあの世界大会はこれまでで一番大きい、ブレイキンシーンでも一番大きい大会だったなと思います。会場のお客さんもすごく盛り上がって、温かくて、すごく踊りやすかった。

S たくさんの人の思い、期待が張り詰めていて、緊張感が違った。自分が歴史の1ページに立ち会えている感覚もあった。

H シゲキくんの開会式での姿もよく覚えてる。あの日はすごい雨が降っていて、船上でびしょ濡れになっているのに、日本代表の中心で旗を持ってぴしっと立っている。僕は後ろの方でAMI(湯浅亜実)ちゃんたちと「あの建物すごいね。こっちもすごいね」なんて話してたから、めっちゃ尊敬だなって(笑)。

S 確かに大変だった(笑)。でも、ブレイキンが認められたような特別な感慨もあった。HIRO10は船の上で踊ってたよね?

日本選手団の旗手を務めたShigekix(半井重幸) photograph by 松本輝一(Kiichi Matsumoto)

H 踊ってました。出発前に他の国の選手団とピンバッジを交換したり、向こうの船とこっちの船でピンを投げ合って交換していたんです。同じ船に乗っていたジャマイカの選手ともピン交換しようよって言ったら、じゃあ踊ってよって。その場で踊ったら、めちゃくちゃカッコ悪い落ち方しちゃって。

S 不安定な船の上だからね。しょうがない(笑)。

大切な、歴史的な「瞬間」

H でも、本番のバトルでは自分のベストを出せたと思います。結果自体はすごく悔しかったけど(予選で敗退)、僕のパフォーマンスでたくさんの人が泣いてくれたりして、そんなことは想像もしてなかった。人生における大切な瞬間になりました。

S バックステージにいてもHIRO10のバトルでの盛り上がりは伝わってきたよ。お客さんの歓声や足場を踏み鳴らすガンガン!って音が聞こえてきたから。歴史的な日の、歴史的瞬間を作っているなって思っていた。僕自身もバトルはとにかく楽しくて、あの日のために準備していた作戦、戦略、当日のアドリブの部分も含めて思い通りに出せた。表彰台には届かなかったけど、そこは満足。

H 自分は予選で負けちゃったので、その後のバトルをずっと見ていたけど、開会式の時とは違う意味でシゲキくんの背中がカッコよく見えました。大会前からずっと注目を浴び続けてきた選手として、大きなプレッシャーの中であれだけのパフォーマンスを見せるすごさと言うのか。本当にカッコよかった。

S ありがとう。そんなふうに言ってもらえるとうれしいです(笑)。

ダイナミックなパワームーブで見る人を釘付けにするHIRO10(大能寛飛)photograph by 松本輝一(Kiichi Matsumoto)

二人が挑戦の場に選んだ「D.LEAGUE」

S 間違いなくブレイキン業界への大きな刺激にもなったよね。日本に限らず、世界中のB-BOY、B-GIRLが大会に向かうプロセスの中で成長した。あとはシンプルに、一般の人のブレイキンの認知度が格段に上がった。

H 大会前から認知度が全然違いましたよ。地元の体育館で練習していて、以前なら「体操?」と言われていたぐらいだったのが、「なんかテレビで見たことあるダンスしてるよね?」って。

S いろいろな場所でブレイキンが愛されている。過去になかった段階にきた感じがするね。

H あの大会を経験して以降、自分のスタイルも変えようとしています。大会前は何カ月もずっと本番を想定したラウンド練習。1から100まで全部決めた踊りで、ダンススポーツ側に完全に振り切っていました。でも、本来自分が好きなのはフリースタイルとかパワームーブ。そちら側をもっと成長させていきたいんです。

HIRO10の挑戦は自身のスタイルを変えることphotograph by 松本輝一(Kiichi Matsumoto)

S 昔からHIRO10の持ち味はパワームーブ。初めて見たときは、こんなにパワームーブがうまい子が出てきたんだという衝撃があった。今はがっちりしてるけど、当時は華奢だったから余計にそう思った。どこにこんなにぶん回せる力があるんだろうって(笑)。

H 確かにキッズの頃は細かったですね。自分にとってのシゲキくんは、当時からずっとすごい人というイメージ。キッズバトルの世界大会で優勝した動画とかを見ていました。

S 僕らは3つ違いだけど、同じ大会で、同じ年齢カテゴリーに出ていたから、昔からずっと同じ場所にいたような気がするな。

H いやあ、自分は別次元だと思ってましたけど、やっと距離を縮めてこられたかな。

S HIRO10はRed Bull BC One World Final(世界最高峰のソロバトルイベント。昨年は12月にリオデジャネイロで開催された。今年は日本開催)にも初めて出場したしね。目で見るもの、感じるもの、周りから受ける影響があって、そこから自分の道を見つけていくことがB-BOYとしては楽しいところ。その中でもHIRO10は常に自分の持ち味を大事にしているのがすごくいい。

H シゲキくんは今、バトルイベントやそれ以外の活動もすごく忙しそう。

S 何事にも恐れず挑戦するスタンスは変えずにいきたいと思ってる。個人の活動だけじゃなくて、Free Style SessionやSUPER BREAKという国際大会で優勝できたように、クルー(ブレイキンにおけるチームのこと)での活動も大きな割合を占めるようになってきた。そこの感覚は新しくて、学べることがある。HIRO10と同じように、D.LEAGUE(Dリーグ)に参戦したのも新しい挑戦。僕はKOSÉ 8ROCKS、HIRO10はValuence INFINITIESと互いにチームは違うけど。

何事にも恐れず挑戦するスタンスを変えずにいきたいと語ったShigekix photograph by 松本輝一(Kiichi Matsumoto)

H 去年一度SPダンサーとしてDリーグに出場して、とても楽しめたんです。控えにいる間にいろんなチームのショーケースを見て、単純にすげえなとも思いました。

S チームで踊るけど、ブレイキンのクルーバトルともまた違うよね。

H 全然違います。他のジャンルのダンサーと関わる機会もなかったのですごく新鮮です。

S ブレイキンにしかないテクニックの見せ方もあるけど、他ジャンルを見るとステップというか、立った状態でどれだけ見せられるか、可能性の大きさを感じる。

H 僕らのチームはB-BOYと他ジャンルのダンサーが入り混じっているので、そこがよさでもあり、難しさでもあります。自分もヒップホップ系の動きをするパートがあるけど、めちゃくちゃ難しい(笑)。

S そういう新しい発見がまたB-BOYとしての自分のスタイルや美意識を考えるきっかけにもなるね。
※SPダンサー:チームに所属せず、期間限定で出演するダンサーのこと

B-BOYの美意識。「B意識」

H そうですね。最近あらためてシルエット、形の大事さを考えます。練習動画を見返す時もシルエットを意識するようにしていて、あまりカッコよく見えなかったら自分は違う方向を試します。難しさを評価する人もいるけど、どれだけ難しいことをしてても形がダサいとダメというか。

S 一概に腕や足がまっすぐ伸びていたら綺麗とかではなくて、そのほうが荒々しさが表れて見える。どう見えているかっていうのは、僕もめちゃくちゃ意識するかな。

H 誰かに「HIRO10のブレイキンの形ってカッコいいよな」と言われて、それから形を意識して練習し始めたんです。

HIRO10はShigekixのことを「シゲキくん」と呼ぶ photograph by 松本輝一(Kiichi Matsumoto)

S ただ、シルエットが美しかったら強いのか、勝てるのか、というと決してそうではない。ブレイキンって「やってること」と「見せていること」にギャップが出てくるんだよね。ブレイキンは自己表現だから、こだわり自体は自己満足で構わないんだけど、それが思ったように人に伝わらないことがある。

H ジャッジによって見方も違うし、パワー使いが好きなジャッジ、フットワークやフレーバーが好きなジャッジもいますしね。そこに難しさを感じます。

S そう。ブレイキンを始めて技ができるようになった。その次にこんなムーブをしたい、このシルエットで見せたいと考える。その先に、実際に自分がイメージした通りに見えているのかというのが課題になる。HIRO10も含めて世界で戦っている人は、そういう領域にいるよね。

H そこがそれぞれのスタイルにもなっていきますね。

S B-BOYの美意識。「B意識」という感じ(笑)。だから、ファッションや髪型、人によってはスキンケアまで含めて、どういうふうに見えているかを意識するのかな。HIRO10は日頃のスキンケアはどうしてるの?

H 実は全然してないんです。

S え? 本当に!?

HIRO10がスキンケアを全くしていないと知り、思わず笑顔がこぼれた

H してみたい、しないといけないっていうのはあるんですけど、朝起きて顔洗ってそのまま練習行ったりとかリハーサル行ったり(笑)。

S すごい(笑)。 汗をかいても?

H そのときは水洗いするだけです。今は大丈夫なんですけど、小さい頃から肌が弱くてワセリンしか塗れなかったからかな。

S 僕も肌はあまり強くなくて、何もしない方がいいのか、した方がいいのか、しすぎちゃダメなのか、試行錯誤した。今はコスメデコルテAQシリーズの化粧水と乳液をメインに使っていて、遠征先でも常に持ち歩いてるよ。移動のときは機内持ち込みサイズの雪肌精のクレンジング、洗顔、化粧水も使っているし。機内って乾燥するよね?

H しますねえ。

S オーケー! じゃあ僕が選んだトラベルグッズをプレゼントします。

H ホントですか!? いやあ、ありがたいです。

S ここからまたブレイキンを一緒に盛り上げていかないといけないしね。

H そうですね。夏の国際大会が終わって、競技的なダンススポーツから一回距離を置きたいと思っていたんですけど、実際に距離を置いてカルチャー寄りの大会だけでは物足りなさがあったんです。だから、ダンススポーツでもカルチャーのブレイキンでも活躍していけるB-BOYになりたいです。

S 僕も自分自身を磨きながら、今後のブレイキンシーンがどうなっていくかワクワクしている人たちを楽しませられるようにしたい。まだまだ僕らの挑戦は終わらないね。

photograph by 松本輝一(Kiichi Matsumoto)

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