2026.06.10NEW
落ち込んでも、次は上がるだけ。松森彩夏が貫く「すべてをプラスに変える」生き方
●ゴルフスポーツビューティ事務局
常に前を向く。言葉にするのは簡単だが、結果がすべての勝負の世界において、それを体現し続けるのは容易なことではない。
松森彩夏が語ったのは、単なる生まれ持った“楽観主義”ではなかった。そこにあったのは、落ち込む自分を客観視し、どんな状況でも自分の行動次第でプラスに変えていけるという、確固たる信念だった。
「すごく落ち込んだら、じゃあ次はもう上がるだけだな、という感覚でいます」
これまでの競技人生でも、当然きつい時期は経験してきた。しかし松森は、そんな時こそ「何年後かに振り返ったときに、これがあってよかったなと思えるはずだ」と考えるようにしているという。無理にポジティブを取り繕うのではなく、深く落ち込むべき時はしっかり落ち込む。そのうえで、「マイナスなことは一つもない。自分の行動一つで、悪いことすらプラスに変えられる」と言い切る姿勢に、彼女の強さの根幹がある。
そのマインドセットは、プレー中のプレッシャーとの向き合い方にも如実に表れている。勝負どころで緊張しないわけではない。むしろ、松森は「緊張はした方がいい」と断言する。
「適度な緊張は良いエネルギーというか、それをすごい集中力に変えられるかどうかが分かれ道だと思っています」
緊張に呑み込まれてしまう時は、集中しきれていない証拠。そう捉えることで、緊張そのものを「適度な集中力を出すためのきっかけ」として利用しているのだ。駄目だと感じた日でも、そこから「何秒以内に気持ちを戻す」といった絶対に達成できる小さな目標を立て、着実に自分をコントロールしていく。
そんな彼女のフラットで自然体な性格は、育ってきた家庭環境にルーツがある。一般的に長女は「しっかり者」や「甘え下手」というイメージを伴うことが多いが、松森は周囲が驚くほどの「甘え上手」な一面を持つ。
目上の人の懐に自然と入り込み、可愛がられるその卓越したコミュニケーション能力の裏側には、両親から「お姉ちゃんだからしっかりしなさい」と役割を刷り込まれることが一切なかったという事実がある。
「あんまりお姉ちゃんとして育ってきてないというか、自覚がないんです。年子というのもあって、妹ともずっと友達みたいな感じで。昔はちょっとお姉ちゃんと呼んでほしくて頼んでみたこともあったんですけど、結局一度も呼ばれたことがないですね(笑)」
変なプレッシャーや役割を押し付けられず、妹とも喧嘩の記憶がないほど仲良く育った。その風通しの良さは、現在の家庭内でのコミュニケーションにも活きている。
同じアスリートであるプロサッカー選手の夫とは、一緒に過ごす時間が限られているからこそ「気になったことや、やってほしいと思ったことを我慢しないで言う」ことを大切にしている。多少の衝突があっても感情に蓋をせず、お互いにすっと離れて時間を置き、翌日に冷静に話し合って解決する。引きずらずに次へ向かう切り替えの早さは、家族という絶対的な安心感があるからこそなのだろう。
松森を語るうえで欠かせないのが、旺盛な「好奇心」と「思い切りの良さ」だ。「新しいことは、やって試さないと気が済まないタイプ」だと自身を分析する。
その性格を象徴する、こんな可愛らしいエピソードがある。プロになったばかりの頃、長野でのツアー終わりに立ち寄ったペットショップでのことだ。ずっと犬を飼いたかった松森だが、実家の両親からは「犬はダメ」と反対されていた。しかし、そこで一匹のポメラニアン×プードル(モコちゃん)と目が合い、一瞬で心を奪われてしまった。
「『買っちゃえ』と思って。明日試合が終わったら迎えに来ます、と即決しました」
両親には「もう買ったから、ケージ用意しといてね」と事後報告。結果的に家族も受け入れ態勢を整えて待ち構えており、モコちゃんは今も実家のアイドルとして愛されている。結果が見えなくても、まずは自分の直感を信じて動いてみる。その圧倒的な行動力は、昔も今も変わっていない。
その思い切りの良さは、第一子を出産するという大きなライフイベントでも発揮された。彼女は不安を抱えながらも「韓国での出産」を選択したのだ。
当時夫が所属していたチームが韓国にあったことも理由の一つだが、一番はやはり好奇心だった。韓国の「産後ケア施設(チョリウォン)」が至れり尽くせりだと聞き、どうしても入ってみたくなったのだという。
「周りからは『言葉も分からないのに』と反対もされましたが、経験として本当に良かったです。韓国は『旦那さんが奥さんの面倒を見る』という意識が非常に高いんです。産前の定期健診や出産後の入院も、日本は女性だけのことが多いですが、韓国では『誰が奥さんの面倒を見るの?旦那さんがちゃんと見なさい』というスタンスで。奥さんを大事にする意識が高いなと感じました」
2週間滞在した産後ケア施設では基本的には夫がいるときにしか赤ちゃんとの時間は過ごせなかったそう。「その分一人時間もたくさんありました。エステやサウナがあったりと設備が充実していたので、とてもリラックスして過ごすことができました。この好奇心がなかったら、日本で産んでいたと思います」
母となり、子育てに奮闘する今、将来子どもにゴルフをやらせたいかと尋ねると、意外にも首を横に振った。
「一緒に趣味程度でできたらいいなとは思います。個人の力を突き詰めるのもいいですが、それよりも私は団体競技をやってほしいという気持ちが大きいです。自分が個人競技しかしてこなかったので、周りを見る力などを養ってほしいなと」
個人競技の厳しさを誰よりも知っているからこその、母としての温かいまなざしだった。
すべては繋がっている。ゴルフに対する姿勢も、家族との向き合い方も、未知の環境へ飛び込む好奇心も。松森彩夏はこれからも、持ち前の思い切りの良さと「すべてをプラスに変える」マインドで、自身の人生を軽やかに、力強く切り拓いていくのだろう。
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