2026.06.01NEW
「一打の価値を変えない」森田遥が語る“勝負勘”と整える力
●ゴルフスポーツビューティ事務局
勝負勘とは何か。そう聞かれた時、多くの人は直感やひらめきを思い浮かべるかもしれない。だが、トップレベルのツアーで戦い続ける森田遥の答えは、少し違っていた。
「ゲーム全体の展開ですかね。そこで攻めるか守るか、とか。あとはその時の天気にもよるんですけど。大前提として、自分の調子ですかね」
森田が語った“勝負勘”は、感覚だけで成立するものではなかった。
コースの状況を見て、その日の風を感じ、自分のショットの質を確かめながら、攻めるべきか守るべきかを判断していく。その積み重ねが、森田にとっての勝負勘なのだ。
「守るべきところと、攻めてもいいなっていうところ、そこのメリハリは普段から気をつけてます」
そこには、勢いだけで押し切るゴルフではない、現役の最前線で磨かれた視点がある。
では、森田が「今日はいける」と感じるのはどんな時なのか。返ってきたのは、やはり具体的な感覚に基づいた答えだった。
「一定のリズムで、全部のショットが自分のイメージ通りに打ててる時ですね。打ちたい距離に対して、きちんとその距離を打ててる時。それがズレる時は、うまく当たってない時です」
ショットの感触だけではない。何ホールかプレーするうちに、その日の飛距離と、自分が持っているイメージとのズレが見えてくる。森田はその情報を集めながら、その日の判断基準そのものを整えていく。
「何ホールか回ると、その日の飛距離や、自分が思ってるイメージと距離が合ってるかどうかもわかるんで、そこのデータを参考にしながら判断していく感じです。練習場の時点で大体わかってはいるんですけど、試合に入ると余計に気持ちも入るので、最初の2ホールぐらいは見てます」
この言葉が象徴的だ。森田の勝負勘は、「今日は調子がいい気がする」という曖昧なものではない。リズム、距離感、飛距離、試合に入った時の気持ちの入り方。そうした小さな情報を拾い上げながら、最初の数ホールでその日の“基準”を作っていく。
直感のように見えるものの裏側に、観察と調整がある。
もちろん、最初からすべてが噛み合う日ばかりではない。イメージと実際のショットにズレを感じた時、森田はどうするのか。
「ひたすら耐えるゴルフをします」
短い一言だったが、その中に森田の強さが詰まっていた。
「調子が悪い時は、ショットの精細さも欠けてくるので、調子いい時よりも許容範囲を広げます。あとはショートゲームとかで補ったり。ちょっとしんどいパーパットが残ったりもしますけど、そこは嫌いじゃないので、自分の長所でなんとかカバーしようとシフトします」
ここにもまた、森田らしい現実的な判断がある。
調子が悪い時に、無理に“良い日の自分”を再現しようとはしない。むしろ許容範囲を広げ、戦い方を変える。ショットの精度が落ちるなら、ショートゲームやパットで耐える。その発想の切り替えができるからこそ、大崩れしにくい。
パットについても、森田には独特の感覚がある。打つ前にラインが見える、という話題になると、本人は静かにこう表現した。
「はっきりとは見えないですけど、大体こんな感じかなっていうのは見えますね。最近は線が1本とかになります。昔はタッチによって入り方とかラインの大きさが違うのが何本も見えていたんですけど、最近は『この強さでこの入り口から』みたいな考え方に変わってきてるのかなと思います」
感覚だけに頼っているわけではない。むしろ、見え方すらも経験とともに変化してきたことを、本人は冷静に受け止めている。森田のゴルフには、感覚と論理の両方がある。そしてそのどちらかに偏りすぎることもない。
インタビューの中で、「試合の流れの読み方や、自分の調子を俯瞰して論理的に考えるタイプですね」と向けると、森田は少し笑いながら認めた。
「そうですね。そうかもしれないです。結構考えるかもしれない」
勝負勘を語るうえで欠かせないのが、プレッシャーのかかる場面での判断だ。優勝争いの終盤、あるいは予選通過がかかった一打。普通なら、その一打だけが特別に重く感じられる。だが、森田はその捉え方に、ひとつの答えを持っていた。
「経験して思ったのが、やっぱり『一打の価値を変えない』っていう答えに行き着きました」
この日のインタビューで、最も印象に残る言葉のひとつだった。
「どんな状況でもその一打はやってくるし、観客が1人見てようが、100人見てようが、1万人見てようが、『一打』には変わりないので。優勝の打だろうが、予選に通る通らないの一打だろうが、ゴルフとしては一緒。できるだけ、この一打が大事だからとか、そういう特別なことは思わないようにしています」
大事な場面だからこそ気負わない。特別な打にしない。それは簡単なようでいて、最も難しいことかもしれない。ただ、森田の言葉を聞いていると、それは精神論だけではないことが分かる。同じ一打として扱うからこそ、いつもと同じように準備し、同じように判断し、同じように打てる。その再現性を守るために、「価値を変えない」という考え方があるのだ。周囲の意見と自分の感覚がズレた時について聞いても、その姿勢はブレない。
「基本的にズレることってあんまりないです。キャディーさんも、何回かお願いしたことがある方にやってもらっています。あと、基本自分が決めるので」
風や距離、ラインについては確認する。ただし、最終的に打つのは自分自身だ。「キャディーさんのせいで」とは思わない、という言葉からも、自分で決める覚悟がにじむ。
では、その判断力や集中力は、何によって支えられているのか。
話を日常に移すと、森田の答えは意外なほど明快だった。
「睡眠ですかね。結構好きで、寝るのが」
少し笑いながらそう言ったあと、森田は生活のリズムについて具体的に話してくれた。
「寝れる時は結構寝てるかもしれないですね。時間を一定にしてる。8時間ぐらいをキープできるようにしてます。枕はずっと同じやつ、遠征でも基本は持参します」
そこまで徹底する理由も、いかにも森田らしい。
「もし寝違えたりとかしても、その枕のせいにしたくなくて。自分の枕だったら、もうしょうがないなって思えるので」
自分で決める。自分で引き受ける。その感覚は、コースの上だけの話ではなかった。
さらに、コンディションを整えるうえで大事にしているのは睡眠だけではない。
前日の食事の時間、お風呂、遠征先での過ごし方――すべてが少しずつ、翌日の精度につながっている。
「やっぱり睡眠は一番大事です。あとは前日にご飯を遅い時間に食べると、次の日もたれる。ちょっと重くなっちゃう。前日の16時とか17時ぐらいにはもうご飯食べちゃいますね。
お風呂にも浸かります。遠征中も。行ったところの美味しいご飯を食べて、パワーチャージします」
試合の日のルーティンも変わらない。スタート2時間前に会場入りし、パター、アプローチ、ショット、そしてもう一度パターへ。調子にかかわらず、同じ順番を踏む。
「ちょっとアプローチグリーンが遠いからって飛ばすことはないです。毎回その流れです」
プレッシャーの中で「一打の価値を変えない」ためには、日常の中で変えないものを持っておく必要がある。森田の言葉をたどっていくと、そんなことに気づかされる。
後半、スキンケアの話題になると、森田はそこでも“ひと手間”の大切さを口にした。
「男性におすすめなのは・・・オールインワンですかね。結構さっぱりしていて、誰でも使えるからおすすめ。化粧水を使うのが面倒っていう人もいると思うんですけど、スキンケアはした方がいいと思います。絶対した方がいいと思う」
香りも大事だという。自分の好きな香りがあると、自然と続けやすくなる。それは見た目のためだけではなく、気持ちを緩める時間にもなるのだろう。
「スキンケアはリラックスという側面もあります。お風呂に浸かって、体の中からもいろいろ出した方がいいと思う。シャワーでさっとじゃなくて、汗を流してしっかりとお風呂に浸かる。そしてスキンケアをする。この循環ができたら老けにくいんじゃないかなって思います。そのひと手間が大切だし、大事なことだと思う」
勝負勘とは、鋭いひらめきのことではないのかもしれない。その日の自分を観察し、調子を見極め、悪い日は耐え、プレッシャーの中でも一打を特別扱いしない。そして、その判断を支えるために、日々のコンディションを整えておく。森田遥の言葉を聞いていると、勝負の世界で最後にものを言うのは、才能だけでも勢いだけでもなく、整えて、決める力なのだと思わされる。
最後に、応援してくれるファンへ向けた言葉を求めると、森田は今の女子ゴルフ界を見つめる視線も交えながら、こう語った。
「今、若くて勢いのある子がたくさん出てきてると思うんですけど、でもまだ30代で頑張ってる先輩もたくさんいる。ゴルフって、年齢問わずできるスポーツでもあるので。いろんな人の、いろんなプレースタイルを理解してもらいつつ、一生懸命頑張ってる姿を見てもらえたら嬉しいです」
攻める日もあれば、耐える日もある。
それでも、一打の価値は変えない。
その積み重ねの先に、森田遥のゴルフはある。
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