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雨の中で輝く。安田祐香が見つけた本物の強さ

2025.12.09

ゴルフ

雨の中で輝く。安田祐香が見つけた本物の強さ

雨宮圭吾

試合の日、朝起きて空を見る。どんよりとした雲が広がっていたり、雨粒が落ちてきそうだったら安田祐香は少し考える。

「曇っていてレインウェアを着ると格好が暗めになってしまう。メイクはあまり変えない方ですけど、そういうお天気の時は普段よりも顔や表情を少し明るく見せたいなと思います。それに上位でプレーしているとテレビカメラにもよく映るので、映像や写真を見てキレイだなと感じてもらえた方がいい。そこはちょっと意識します」

遠征に持っていく化粧品はいつも決まっているし、メイク時間は長くても15分ぐらい。だから変化をつけるとしたらリップぐらい。ただ、そんな小さな気遣いが雨の日に勝負の運を引き寄せることもあるのかもしれない。

雨の中でつかんだ2つの優勝

今年4月、安田は『富士フイルム・スタジオアリス女子オープン』でツアー2勝目を挙げた。初優勝のときと同じように雨中でつかみ取った栄冠だった。

「初優勝から半年ぐらいだったので、割と早めに2勝目を飾れた気がします。初優勝の後はふわふわした気持ちがあったんですけど、2勝目は接戦で勝ち切れたのですごくうれしかった」

photograph by 山元茂樹(Shigeki Yamamoto)

ツアー初優勝を飾った昨年9月の『ミヤギテレビ杯ダンロップ女子オープン』は悪天候に翻弄された大会だった。第2日が雨で中止となり、最終日も9ホールに短縮された。本来であれば3日間54ホールが、半分の27ホールに。まるで短距離走のような戦いで初日首位から逃げ切った安田だったが、あまりにあわただしい展開に「ふわふわした気持ち」になったのも無理はなかった。

雨絡みなのは2勝目も同じ。ところが今度はむしろ長引いた。

最終日は強い雨。途中でコースコンディションの悪化による中断もあって長いラウンドとなった。1打差2位からスタートした安田は中村心、河本結とのプレーオフへ。1ホール目で中村が脱落した後、河本とのつばぜり合いは両者譲らず4ホール目までもつれ込んだ。

決着のプレーオフ4ホール目、ティーショットは2人とも左サイドのバンカーにつかまった。2打目は水気をたっぷり含んだ砂地から、距離のある難しいショット。先に打った河本の一打は大きなミスになったが、それを見た安田は落ち着いてグリーンをとらえ、勝利を手繰り寄せた。

3日間合計58ホール。最後のウイニングパットを沈めた瞬間、安田は輝くような笑顔を見せた。そう、ようやく笑ったのだ。雨や寒さ、プレーオフなどさまざまな状況の変化と緊張感の中でも、乱れず淡々とプレーを積み重ねていたからこそ、最後の安堵の笑みが印象的だった。

「普段からあまり感情を顔に出さない方なんです」

「普段からあまり感情を顔に出さない、表情に出ない方なんです。『楽しいの?』ってよく言われるんですよね(笑)。集中力がいつも以上にないとすぐにスコアを崩してしまうようなセッティングやコンディションの方が好きなのかもしれません。その分、緊張する時もありますけど、基本は落ち着いて目の前の一打を何も考えずに打つことが一番。それができるように普段から心がけています」

photograph by 山元茂樹(Shigeki Yamamoto)

残り175ヤード、5番ユーティリティーでグリーンをとらえたバンカーからの一打も、そんな心がけが実ったショットだった。

「オフのときは自分の苦手な部分を練習するようにしているんです。やっぱり難しいライからのショットは苦手なので、練習ラウンドでは『本番でもさすがにここにはいかないだろう』というような場所から打ってみたりします。フェアウェーバンカーもオフの合宿でよく練習していた。それが結果的に2勝目につながった。ゴルフはミスが出るスポーツですけど、そのミスを減らしていいショットがたくさん打てた時、気持ちよく打てた時こそすごく楽しい気持ちになります」

理想と現実の狭間で苦しむ中、転機となった青木瀬令奈との関わり

安田が3学年上の姉の後を追うようにゴルフを7歳から始めた。

「ゴルフを始めた頃はテレビをつけると宮里藍さんや上田桃子さんが戦っていた。かっこいいな、自分もあんな選手になりたいなと思っていました」

理想は彼女たちのように第一線で、長く戦い続ける選手になることだった。ナショナルチームの一員として海外の舞台でも活躍し、アマチュア時代は順風満帆だった。それに比べると、プロ入り当初は苦しんだ。ルーキーイヤーの2020年には首を痛めて約1カ月ツアーから離脱。しばらくはおそるおそるのプレーが続いた。最終盤に崩れて優勝を逃し、悔し涙を流した試合もあった。

「以前は体調が整えられなくて、目標設定も今とは違っていました。優勝が目標というよりは、『上位で戦いたい』くらいにほんわかしてました。試合をこなし続けているみたいな時期もあったと思います。何が足りないのかなと考えていましたけど、ゴルフを全然高い意識で見ていなかったのかもしれません」

photograph by 山元茂樹(Shigeki Yamamoto)

その意識が変わってきたきっかけのひとつが、ツアーの先輩である青木瀬令奈との関わりだという。この2、3年はオフの合宿に誘ってもらい、練習ラウンドを共にしたり、コースを離れて一緒に食事をする機会も増えた。

青木はツアーではベテランの部類に入る32歳。153㎝と小柄ながら、正確なパッティングを武器に通算5勝を挙げ、シードも10年維持し続けている。今季も足指の故障を抱えつつ安定した成績を残しており、「長く活躍する選手」という安田の理想を地で行く選手でもある。

「一緒にいることで自然と学ぶことがあります。練習ラウンドではアプローチの打ち方を聞いたり、試合で同組だった時も翌日にアドバイスを聞きに行くこともある。私もどうやって打っているかをシェアしたり。私にとってツアーでそういう関係性になる選手は珍しいですけど、友達というよりは先輩です。こんなに面倒を見てもらっていいのかな?というぐらい、いつも気にかけてもらってますから」

黄色いグッズを身につけ、甲子園球場での野球観戦が貴重な息抜き

安田にとって忙しいツアーの合間の貴重な息抜きのひとつが野球観戦。休日には、スケジュールが合えば黄色い応援グッズを身につけて甲子園球場に足を運ぶ。

「野球は詳しくなかったんですけど、瀬令奈さんの影響で観に行くようになりました。純粋に楽しむ場所でもあるし、ゴルフと重なる部分もあります。同じスポーツで流れがあるので、『チャンスの時に乗っていけると自然と勝ちにつながるんだな』と応援しながら感じます」

長く輝き続けられる選手であるために

プロになって少し時間はかかったが、肉体面、精神面ともに安田はプロで羽ばたいていくための準備がようやく整ってきたのかもしれない。だからこそあらためて「私も長い間活躍する選手になりたい。その目標は変わりません」と言うのだった。

「自分のゴルフを見て、ジュニアの子がこの選手みたいになりたいと思ってくれたらうれしい。実際にそんな手紙をもらえるとすごくうれしいんです。そういうお手本となってゴルフ界を盛り上げていきたい。特に女の子はきれいかどうかって考えると思うので、そういう面も大事ですよね」

photograph by 山元茂樹(Shigeki Yamamoto)

そのためには日頃からのスキンケアも欠かせない。アマチュア時代は無頓着だったというが、そちらの面もプロで〝見られる〟経験を積むうちに意識が変わっていった。

「肌は特別弱くはないんですけど、できるだけいいもの、優しいものがいいので雪肌精クリアウェルネス(ピュア コンクSS)を使うことが多いです。水みたいに軽くて、保湿もできる。敏感肌用でアルコールフリーなので、少し肌荒れしている時にも使うようにしています」

屋外に居続けるプロゴルファーにとって日焼け止めも必須アイテム。「大容量で伸びるタイプが好き」とサンカットシリーズを愛用している。

「それに日焼けした後はできるだけ早くリカバリーする。絶対に最初はコスメデコルテのリポソーム(リポソーム アドバンスト リペアセラム)。そのあと化粧水やパックをして、保湿できたなと思ったら寝ます」

photograph by 山元茂樹(Shigeki Yamamoto)

日々の練習と同じで、その積み重ねが長い現役生活へとつながっていく。

「1年はあっという間なんですけど、毎年課題が見つかって伸びしろがある。そう思っているうちはまだまだできる。気持ちを保ち続けるのは大変なことですけど、女子ツアーも年齢が高い選手は増えているので、自分もまだまだできると思います」

TEXT BY

1979年、東京都生まれ。2002年にスポーツニッポン新聞社に入社。大相撲やゴルフのマスターズ、テニスのウィンブルドンなどさまざまな現場を経験。オリンピックも'14年ソチ、'16リオデジャネイロ、'18年平昌を担当した。'19年に独立し、現在はNumber編集部でライターとしてだけでなく編集業務にも携わる。'21年東京五輪では編集部の特派記者としてスケートボードやスポーツクライミング、柔道、ボクシングなど幅広い競技をカバー。これまでにロジャー・フェデラーからなかやまきんに君に至るまで、競技やジャンルを問わず数多くのインタビュー記事も手がけている。

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