2024.11.15NEW
✨Taichi HappyBirthday✨
●ブレイキンスポーツビューティ事務局2021年1月に開幕したダンスのプロリーグ「D.LEAGUE」。参加チームの1つ、「KOSÉ 8ROCKS」(コーセーエイトロックス)は初年度は3位となってチャンピオンシップに進出、2シーズン目には優勝を遂げた。
その活動を支えるスタッフの1人が、メイクアップアーティストの三保谷優美である。
「子どもの頃から化粧品が大好きで、なんとなく自然と化粧品関係の仕事に就く、というのは決めていました」
だが、メイクアップアーティストを目指していたわけではなかった。
「憧れとか、なれたらいいなみたいな気持ちはありました。ただ絶対になってやるみたいな意気込みはありませんでした」
それでも思い描いていたように、専門学校を卒業後、外資系の化粧品ブランドに就職する。約10年、美容部員として百貨店のカウンターに立っていたという。
その中に、メイクアップアーティストへと導く出会いがあった。
「そのブランドにもアーティストがいたので、例えば撮影のアシスタントに行ったり、お手伝いさせていただいたりする機会がありました。その後、通っていた専門学校の先生から、講師をやってみないかとお誘いいただいて教えていました」
3年が経ち、「他のことがしたいな」と思っていたとき、コーセーから誘いがあり入社。メイクアップアーティストとしてスタートを切ることになった。
広告撮影、コーセーの美容部員へ向けてのテクニックの発信などの業務に携わる中、舞い込んだ仕事はKOSÉ 8ROCKSのメイクアップ担当だった。
「Dリーグが発足して参加するというお話が持ち上がったときに、ヘアメイクを任せてもらうことになり、ブレイキンについていろいろ調べ始めました。
ブレイキンの歴史、どのようにして生まれたのかというところを調べて、ストリートカルチャーであったりニューヨーク発祥で欧米の人が築いてきた文化みたいなところがあったので、それをアジア人の彼ら彼女らにどういう風に落とし込めるかな、というのは考えました」
D.LEAGUE開幕から今日まで、KOSÉ 8ROCKSのメイクを担当してきた。
ROUND.1から最終ラウンドまで回を重ねていくD.LEAGUEでは、各ラウンドごとに違った曲を選び、構成や演出がなされる。それに応じて同じダンサーに対してもメイクは変化させていく。
「ラウンドごとにテーマが違うので、『こういう世界観です』『こういう女性像です』みたいなやりとりがあって、それに沿ってメイクします。最初の2年は細かくやりとりしていましたが、過去に行ったテイストが蓄積されてきているので、阿吽の呼吸というか経験がいかされるようになっています。
反省は毎回あるんですけど、メイクというよりはヘアの方がすごく難しいですね。
やっぱりあれだけアグレッシブに動いたり、床に頭をつけたりヘッドスピンしたり、人と体が触れ合ったりするようなことをしているので、崩れないように気をつけます。崩れないようにするにしても、痛くなったりすると集中できなくなってかわいそうですし、結ぶ位置もすごいシビアです。みんなそれぞれ違うんですけど、例えばYuikaちゃんだと、後ろで結ぶにしてもちょっと右横にしてほしいとかベストな位置があって、いつもお互い確認し合いながらやっています」
ラウンドごとの違いはあっても前提とするものは共通だという。
「ブレイキンだからメイクはこう、というのは正直ないと思います。ただブレイキンの精神性っていうんでしょうか、雰囲気がけっこう強い感じのテイストだったり、ストリートの要素をうまく取り入れるというところは大事です。また、観客との距離はあるので、観客から見たときにどれだけその顔が美しく見えるかを考えています」
その上で、こう語る。
「エイトロックスのみんなの心を上げていきたいですね。いちばんは本人が自信を持ってステージに立てるように、というのが根底にあって、D.LEAGUEが始まった当初からずっと忘れないように、行くたびにちゃんと思い出してやろうとしています。ラウンドごとにあるテーマの再現性はもちろん大事なんですけれども、自分の顔に自信が持てず、表情が作れないなどの不安があるようなら、私に責任があると思います。テーマの再現性とともに、本人の自信が出るポイントをちゃんと合体させて送り出すことを毎回考えますね」
そこにはダンサーの心をメイクによってよりよく変化させたいという思いがある。それはKOSÉ 8ROCKSに限らず、三保谷のメイクに対する信念に基づいている。
「美しさってけっこう内面から出るものだって私は思っていて、私が表面上に色とかを乗せることで自信が出たり、勇気が出たりする。その内面が表れた表情が美しいのだと思います。見た目の美しさというより、中からそうしたものが出るといいなと思って取り組んでますね。本人の心持ちや気持ちを変えるような。すごい難しいんですけれど、それができたらうれしいですね」
昨シーズン、心に残るメイクがある。ROUND.4、KOSÉ 8ROCKSはアフリカの架空の部族の戴冠式を表現した。メインの1人となったCOCOAへの王妃をイメージしたメイクだ。
「あの回はCOCOAちゃんが女の子のメインで出ていたんですけれど、自分的にはベスト、いちばんです。送り出すときから自信がありました。彼女自身に似合ってたし、COCOAちゃん自身もなりきってくれていましたし、ステージを離れてみたときも、モニター越しにもすごい素敵でした。勝ったあとステージ上で泣いている顔ですら美しく見えました」
それは開幕から3連敗したあとにあげた初勝利だった。
「負ければ、単純にずっと応援してサポートしているから悔しいっていう気持ちと、負けたあと、選手が舞台袖に戻ってきたときの落ち込みや怒りを間近で見ているので、どうやってケアできるかなと考えたりします。彼らと私の悔しさは比べ物にならないですけど、同じように浮き沈みしてますね」
チームへの強い思い入れをもって臨んでいるから、初勝利の喜びも会心のメイクとして刻まれた記憶に結びついているのかもしれない。
「メイクアップアーティストとしていちばんうれしいのは、メイクをしてさしあげた方がすごく喜んでくれたり満足してくれたりしているのを見るときですね」
あらためて信念をこう語った三保谷は新シーズンに目を向けている。
「先シーズンは悔しい思いを一緒にしたので、次こそは、というところはありますね。メイクを通じてのサポートを続けていきたいと思っています」
早稲田大学を卒業後、出版社勤務を経て「Number」の編集に10年携わりフリーに。スポーツでは五輪競技を中心に取材活動を続け、夏季は2004年アテネ、'08年北京、'12年ロンドン、'16年リオデジャネイロ、冬季は'02年ソルトレイクシティ、'06年トリノ、 '10年バンクーバー、'14年ソチ、'18年平昌と現地で取材にあたる。著書に『高齢者は社会資源だ』(ハリウコミュニケーションズ)『フライングガールズ−高梨沙羅と女子ジャンプの挑戦−』(文藝春秋)、『メダリストに学ぶ 前人未到の結果を出す力』(クロスメディア・パブリッシング)など。
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