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何よりも観客を沸かせたい。そのために『昨日の自分よりも上手くなりたい』サンロッカーズ渋谷・ベンドラメ礼生の決意

2024.09.05(最終更新日:2024.09.06)

バスケットボール

何よりも観客を沸かせたい。そのために『昨日の自分よりも上手くなりたい』サンロッカーズ渋谷・ベンドラメ礼生の決意

ミムラユウスケ

バスケットボール界は盛り上がっている。10月に始まる2024-25シーズンも、これまで以上に注目を集めるはずだ。

プロバスケットボールリーグであるBリーグの人気が高まり、観戦チケットが簡単に手に入らない。2023-24シーズンは度々、そんな声が挙がった。2022-23シーズンからの入場者数の伸びはすさまじく、Bリーグ全体で平均入場者数が昨シーズン比141%の450万人超えを達成した。

感情を爆発させるほどの熱狂を生み出す、バスケ熱の高まり

サンロッカーズ渋谷のキャプテンとしてチームを引っ張ってきたベンドラメ礼生は、昨年の8月から9月にかけて開催された世界大会の影響が大きいと感じている。マニラ(フィリピン)、ジャカルタ(インドネシア)に加えて、沖縄で行なわれた世界大会で日本代表が奮闘した。その結果、多くの日本人がバスケットボールに釘付けになった。

「あの沖縄での戦いを経て、観客の人たちも、盛り上がり方や声の出し方を覚えてくださったなという感覚があります。これまでであれば、試合中にはただ拍手をして盛り上がるくらいでした。今は、素晴らしいプレーがあると、立ち上がって叫んでくれる方が多くなりましたから。以前はそこまでするのには恥ずかしさもあったかもしれないですけど、今は、感情を爆発させてくれる観客がすごく増えているんです」

バスケ熱の高まりについて語るベンドラメ礼生
photograph by 松本輝一(Kiichi Matsumoto)
バスケ熱の高まりについて語るベンドラメ礼生
photograph by 松本輝一(Kiichi Matsumoto)

人気が高まっているバスケットボール界のなかでサンロッカーズは、最も飛躍したクラブの一つだ。1試合平均の観客数は、2,518人から4,455人まで大きく伸びた。その伸び率はBリーグ平均を大きく上回り、実に昨シーズン比177%に達する。また、2024年1月に有明コロシアムで行なわれた試合ではクラブ史上最高となる9,668人もの観客を集めた。しかも、その試合は、終盤に追いつき、延長戦のすえに勝利をつかむ熱戦だった。観戦に来た人たちにとって最高のプレゼントとなった。

「やはり、観客が増えると、歓声もそれだけ大きくなります。1万人近いお客さんの前であれだけ面白い試合を展開できたのは嬉しかったですね。あのような舞台でシュートを決め、会場を盛り上げた人にしかわからない感覚なのかもしれませんけど……コートの中心にいる一人の選手として、本当に体が震えているような、ジリジリくる感覚がありました」

人から見られることを自覚して、ある意味『格好つける』ようになった

ベンドラメは2016年のBリーグ開幕時からサンロッカーズでプレーしており、Bリーグ初年度には最優秀新人賞を受賞した。期待のルーキーとしてデビューして、今ではチームを引っ張るキャプテンだ。一人のバスケットボール選手として成長したのは言うまでもない。

立場が変わったことで、振る舞いも変わった。多くの人から見られていることを自覚するようになった。

「僕はルーキーシーズンからガムシャラにプレーしてきたタイプなので、気持ち自体はそこまで変わっていないかもしれません。ただ、以前と比べれば、ある意味で『格好つける』ようになったかなとは思います。やはり、多くの人が見てくれていますから。シュートを決めた後に会場を盛り上げようとするのもそうです。あるいは、取材を受けるときなど、コートから離れたところでも、格好良く写真を撮って欲しいなと思うようにもなりました。そういう意味で、僕自身の振る舞いも変わったかもしれないですね」

動きながらのシュート練習を行うベンドラメ礼生と小島元基 photograph by 松本輝一(Kiichi Matsumoto)

肌荒れがひどくて諦めかけていた時期を経験したからこそ気づけた、肌のケアの大切さ

そうやって振る舞いが変わるなかで、身だしなみを整える行動の一つであるスキンケアの方法も変わっていった。ベンドラメは、ルーキー当時のことをこう振り返る。

「スキンケアはほとんど意識したことがなかったです。プロになるまでは、多くの人の前に立つ機会も少なかったですし。ただ、プロとしてキャリアを重ね、人前に立つことが多くなるなかで、『肌が荒れているかもしれない』と感じる機会は増えてきました」

photograph by 松本輝一(Kiichi Matsumoto)

とりわけ、Bリーグでの戦いと日本代表の活動を両立している時期には、肌のコンディションを整えるのが大変だった。

「日本代表に入っていたときの精神的、肉体的なストレスはかなりのもので、肌がすごく荒れていました。代表では毎回の練習の緊張感がすごくて。自分が練習で1本シュートを外しただけでも、同じポジションの選手がシュートを決めたら、『これで代表メンバーから落選してしまうかもしれない』という気持ちにもなりましたし。日本代表として活動するのはもちろん名誉なことなのですが、ストレスはものすごかったですね」

当時は肌荒れがひどく、スキンケアをするのを半ばあきらめていた時期もあった。その後は代表でも世代交代があり、ベンドラメ自身も中堅からベテランにさしかかる年齢となった。

「ここ2、3年で、少しずつ肌の状態も良くなってきました。そういうタイミングだからこそ、改めてスキンケアについても考えるようになり、普段から肌のケアを気にかけることの大切さに気づいた感じです」

多くの人の前に立つ機会が増えたことがスキンケア意識を高めるキッカケになったと語るベンドラメ礼生 photograph by 松本輝一(Kiichi Matsumoto)

そんなタイミングで、バスケットボールの人気が高まり、観客動員数が飛躍的に増加した。だからこそ、これまで以上に身だしなみを整えることに敏感になる必要がある。

「メディアに出させてもらえる回数も増えてきましたから。そうなるとやはり、『もっとキレイにしなきゃいけないな』と感じるので。そういったところから意識を高めていけたらいいなと考えています」

2024-25シーズンの撮影に向け、メイク中のベンドラメ礼生
2024-25シーズンの撮影に向け、メイク中のベンドラメ礼生

1勝の悔しさを痛感した昨シーズン

期待や注目度が高まった一方で、本業であるバスケットボールの成績では悔しさを味わったのが昨シーズンだった。

昨シーズンのサンロッカーズは、チームを指揮するヘッドコーチが代わり、日本代表のジョシュ・ホーキンソンなど新しい選手が多く加わり、変革の時を迎えた。ちょうどコーセーがオフィシャルトップパートナーになり、選手のユニフォームの左肩にロゴを掲出するようになったタイミングでのことだ。

ただ、新しいコーチの戦い方を学んだり、新戦力とのコンビネーションを築くまでには時間も必要だ。変革は一夜にして成し遂げられない。とりわけ、シーズン序盤戦は怪我人が出た影響などもあり、思うように成績は上がっていかなかった。それでも、ポテンシャルの高さを見せつけるかのように、シーズン終盤が近づくにつれて成績はうなぎ登りになっていった。

Bリーグではレギュラーシーズンのあとに、日本一を決めるチャンピオンシップが控えている。チャンピオンシップは、野球でいうクライマックスシリーズにあたる。

レギュラーシーズンの終盤に歯車ががっちりかみ合ったサンロッカーズは、怒濤の快進撃を見せたものの、わずか1勝足りずに、チャンピオンシップへの出場を逃してしまった。

実は、Bリーグの歴史のなかで、レギュラーシーズンで最高の成績を残したチームが優勝したことは一度もない。逆に、チームとしてシーズンの終盤まで成長を続けたチームが優勝している。実際、昨シーズンも、優勝したのはレギュラーシーズンの成績が7番目のチームだった。だからこそ、昨シーズンの終盤にかけて急激な成長曲線を描いたサンロッカーズの健闘を惜しむ声があったのだ。「もう少しシーズンが長ければ、優勝も可能だったのではないか」と。

2024-25シーズンに向けた練習に取り組むサンロッカーズ渋谷の選手たち photograph by 松本輝一(Kiichi Matsumoto)

ベンドラメ自身も、そういう声があるのはわかっているし、シーズンの終盤には大きな手応えを感じていた。

「レギュラーシーズンの終盤は、応援してくださる人たちもそうだったかもしれませんが、選手としても負ける気がしませんでした。もしチャンピオンシップに行っていたら、優勝していたかもしれないという意見があるのはわかります」

その一方で、ベンドラメには言い訳をしたくないという気持ちがある。プロアスリートとしてさらに成長するためには、何をすべきかについて目を向けるべきだという信念がある。

「確かに、あと1勝でチャンピオンシップに行けたかもしれないですけど、あと1つ勝たないと上にいけない状況にしてしまったのは僕たちです。その責任はしっかり受け止めて、今シーズンにつなげていきたいです」

何よりも観客を沸かせたい。そのために『昨日の自分よりも上手くなりたい』

先日行なわれたパリでの世界大会で、男子のバスケットボール代表はグループリーグ敗退に終わったものの、最終的に銀メダルを獲得したフランス代表と互角以上の戦いをするなど、人々を熱狂させた。昨年の沖縄での世界大会で盛り上がったバスケットボール熱は冷えるどころか、さらに高まる可能性がある。

そうした状況をわかっているからこそ、ベンドラメは決意を口にする。

「プロ選手として勝ちたい気持ちはもちろんあります。ただ、それだけではなくて、僕は観客のみなさんを盛り上げたいという気持ちが強くあるんです。みなさんを沸かせる瞬間というのは、プロとして気持ちが最も高まる瞬間なので。そのために『昨日の自分よりも上手くなるぞ』と思って、向上心を持って、毎日の練習をしているんです」

今シーズンのサンロッカーズは主力が大きく入れ替わることもなく、昨シーズンからの積み上げが期待できる。わずかな差でチャンピオンシップ出場を逃したチームから、日本一を狙えるチームへと立場も変わった。人気面で大きな飛躍を遂げたサンロッカーズが、今度はバスケットボールの成績面で躍進したとしても決して不思議ではないのだ。

photograph by 松本輝一(Kiichi Matsumoto)

TEXT BY

スポーツライター。2006年7月に活動をはじめ、2009年1月にドイツへ渡る。ドルトムントやフランクフルトに住み、ドイツを中心にヨーロッパで取材をしてきた。Bリーグ開幕日の2016年9月22日より拠点を再び日本に移す。『NumberWeb』での連載は2009年7月から続いている。近刊に執筆・構成を務めた香川真司「心が震えるか、否か」。著書に「千葉ジェッツふなばし 熱い熱いDNA」や「淡々黙々。」(内田篤人氏と共著)、横浜ビー・コルセアーズの「海賊をプロデュース」(木村剛氏と共著)がある。岡崎慎司の著書「鈍足バンザイ!」の構成も手がけた。

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