2024.11.14NEW
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●バスケットボールスポーツビューティ事務局2023年8月から9月にかけて日本中を熱狂に包んだ世界大会を経て、Bリーグが開幕した。“沖縄での戦いの効果”は抜群で、バスケットボールへの注目度はあがり、日本中のアリーナから満員御礼の声が聞こえてくる。そんな日本のバスケットボール界で今、大きな注目を集めているのは、2023-24シーズンからサンロッカーズ渋谷に移籍したジョシュ・ホーキンソンである。
ホーキンソンは先の世界大会でオールラウンダーとしてコートを走り回り、攻守に奮闘。シュート成功率やリバウンド数など多くのデータ面でチーム最高の成績を残し、MVP級の活躍を見せた帰化選手だ。
大会後にTVや雑誌などのインタビューの依頼が殺到したことも、彼の価値を物語っている。彼が高く評価されるのには大きくわけて2つの理由がある。
1つ目は、チームメイトのために献身的なプレーをいとわないからだ。
ダンクシュートのような派手なプレーだけではなく、味方のシュートが外れたらリバウンドを取るために身体を投げ出し、相手のマークが自分に寄っていると感じればフリーとなっているチームメイトに絶妙のパスを出す。
「僕は派手なダンクシュートを何本も決めるような選手ではありません。コート上を走り回って、味方が外したシュートを拾って決めることもあります。そういったプレーをする選手がどのチームにも必ず必要ですし、そういう役割を担えることが僕の強みでもあるので」
もう1つの理由は、日本代表への強い想いがあるからだ。
その想いの強さが如実に表れていたのが、夏の世界大会の最終戦だった。プロバスケットボールの世界では非常に珍しい、フルタイム出場を果たしたのだ。チームメイトの負傷の影響もあったが、試合終盤には肩で息をしながらも、仲間のために40分間コートを走り続けた。日本代表のためにすべてを捧げる覚悟がなければできないことだった。
今年2月、日本国籍を取得した直後に日本代表として初めてプレーした日の記憶を手繰り寄せながら、彼は熱い想いをこう説明する。
「日本代表のユニフォームに袖を通したときには、グッとくるものがありました。というのも、日本に帰化することは自分だけの力では実現しえないことだったので。帰化が認められるまでにサポートしてくれた人たちのことを考えると、感慨深い気持ちになります。そして、そういう人たちの存在があったから、日本代表のユニフォームを着るときには、普段よりも大きな力をもらえると感じています」
その想いの強さはもちろん、コートの外でも表れている。彼が日本国籍をとるために日本語のコミュニケーション能力を問われる面談をクリアしたのは言うまでもないが、それ以降も日本語の勉強を続けている。最近では真面目な勉強だけでは飽き足らず、一緒にいる人をクスっとさせるようなダジャレを日々、考えているほどだ。もちろん、彼が試合後に日本語を使ってファンに呼びかけるヒーローインタビューも大人気だ。
そもそも、ホーキンソンが日本に帰化しようと考えた大きな理由の1つが、日本での生活が上手くいくように手助けをしてくれた人たちに恩返しをするためだという。周りの人たちから教えてもらった日本語を積極的に使おうとするのは、そんな想いとも関係している。
今では名実ともに日本を代表するバスケットボール選手となったホーキンソンには、夏の戦いのなかで、「美しい」と感じた瞬間があった。カーボベルデとの最終戦でのプレーだ。
「味方がドリブルでインサイドに入って相手チームのマークを引き付けたことで、アウトサイドにいる僕がフリーになって、スリーポイントシュートを決めた場面です」
あのホーキンソンのスリーポイントシュートが決まったことで、日本代表は試合の勝利と、目標としていた大舞台への出場権をほぼ確実なものとした。その意味で大きな価値を持つシュートだった。
あの一連のプレーを「美しい」と感じたのには明確な理由がある。
キーワードは『same page』だ。これは直訳すれば「同じページ」となるが、チームや組織が「同じ考えを持っている」という意味を表している。彼はチームについて語るとき『same page』というフレーズをしばしば口にする。
「相手チームのディフェンスがどのように動いてくるのかをチーム全員がしっかりと読みきったうえで、みんなが『同じ考えを持って』プレーして、最後にシュートがキレイに決まったから『美しい』んです」
バスケットボールは決して一人でやるものではない。仲間とともに汗を流して、勝利を目指すスポーツだという考えをホーキンソンは持っている。
今シーズンから新天地として選んだ渋谷でも、そのような「美しい」プレーを見せたいと考えている。同じタイミングで過去にBリーグで2連覇を経験したことのあるヘッドコーチのルカ・パヴィチェヴィッチや田中大貴なども加わっており、ホーキンソンの想いを実現できるだけの環境が今の渋谷にはある。
そして、時を同じくして渋谷をサポートする新パートナーとなったのが、コーセーだ。選手たちの正装であるユニフォームの左胸に、コーセーのロゴがプリントされている。インタビューの際にも笑顔で左胸のロゴを指さしていたホーキンソンは、シーズン前に数多くあったテレビへの出演時や雑誌用の撮影時のこんなエピソードを明かす。
「撮影するときにはプロの方にメイクをしてもらうのですが、そういった方たちの多くがコーセーの商品を使っていたんです。プロの方が使うのは、品質が素晴らしいからでしょうから、僕も今回の移籍を機にどんどん試していきたいと思っているんです」
スポーツビジネスの盛んなアメリカの事情もよく知っているホーキンソンは、スポンサーと選手とのビジネスライクな関係をイメージしているわけではない。むしろ、スポンサーとは共通の目標に向かっていく仲間だという意識がある。
「先の世界大会での成功は、みんなで掲げた目標に向かって、みんなが『同じ考えを持って』進んだことで成し遂げられたと思うんです。ただ、そういう経験はバスケットボール特有の出来事ではなくて、人生にも通じるところがありますよね。周りの人たちとしっかりコミュニケーションをとって、共通の目標を掲げて、そこに向かって進んでいくことで成功があります。
そして、サンロッカーズ渋谷では僕たちだけが『同じ考えを持って』いけばいいというわけではありません。選手だけではなくて、熱心に応援してくれるファンのみなさんや、色々な形でサポートしてくれるパートナーのみなさんが、『同じ考えを持って』進んでいくことで目標に近づけると信じています」
選手もファンもパートナーも『same page』に載っている、Bリーグの頂点へと突き進んでいく「物語」を、ホーキンソンは紡ぎ出そうとしているのだ。
スポーツライター。2006年7月に活動をはじめ、2009年1月にドイツへ渡る。ドルトムントやフランクフルトに住み、ドイツを中心にヨーロッパで取材をしてきた。Bリーグ開幕日の2016年9月22日より拠点を再び日本に移す。『NumberWeb』での連載は2009年7月から続いている。近刊に執筆・構成を務めた香川真司「心が震えるか、否か」。著書に「千葉ジェッツふなばし 熱い熱いDNA」や「淡々黙々。」(内田篤人氏と共著)、横浜ビー・コルセアーズの「海賊をプロデュース」(木村剛氏と共著)がある。岡崎慎司の著書「鈍足バンザイ!」の構成も手がけた。
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